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人間と共存する AI(人工知能)

人工知能(AI)は、これまで人間の知能と競り合い、そして上回ろうとする技術と考えられていました。しかし、AIに対する捉え方が変わりはじめています。人間の能力以上のスピードでデータ処理が可能になったAIは、特に画像や音声データの処理や合成に優れており、人々に利益をもたらしました。

しかしながら、予期せぬことが起こった場合の対処には限界があるのが現状です。本来のAIに求められることは生産性を向上させることですが、想定外のことに対応ができないことは、この生産性を妨げる可能性があります。

AIが人間より優れた能力を発揮するのではなく、人間と協力してAIを使う人々のパフォーマンス向上に焦点を当て、目の前のタスクを解決することが重要です。人間とAIが協力すれば、人間にとっての利益は大きなものとなるはずです。それが「人間中心のAI」です。

1. 人間にしかできないこと

AIに具体的な目標とその達成方法を教えると、人間よりも高いパフォーマンスをだします。ビックデータを使用して深層学習(ディープラーニング)を適用すれば、AIは人間のパフォーマンスを超越するのです。しかしながら、想定外の状況下では、AIのパフォーマンスは、人間がプレッシャーや疲労を感じていない限り、人間のパフォーマンスよりも劣ります。その一例として、2011年にIBMのWatsonコンピュータがゲームショーで対戦相手に勝った時のニュース報道があります。(英語資料

例えば、自動運転車は、疲労や注意散漫のような人的ミスを排除することができるので、人間が運転する車より安全といえます。しかし、自動車の前に風船が飛んで来た場合など、人間は状況に驚いたとしても、安全に運転をし続けることができますが、AIは想定外の状況下では危険なリアクションをしてしまう可能性があります。他にも、AIは人間の医師よりも多くのサンプル画像を入力し、学習することができるため、腫瘍を正確に識別できる可能性があります。しかし、医師は患者との信頼関係を築き、病状の説明をする必要があります。これは現在のAIが行うことはできません。 

2. 人間 対 AI

 AIの導入プロセスから人間を排除するのではなく、人間中心のAIこそがAIを使ったビジネスを成長させ、人間の求めているAIビジネスを導くのです。この分野で最前線をいく、スタンフォード大学の人間中心のAI研究所は、次の3つを焦点とすべきとしています。(英語資料

1.人間と社会における、AIの影響を研究し予測する

2.人間の生産活動を促進する、AIシステムを構築する

3.新しいAI技術を開発するために、人間の知能についてより深い理解を研究する

今日のビックデータを使用した機械学習は、人間の知能と完全に一致しておらず、特に3点目が重要視されています。人間中心のアプローチは、単なるデータやアルゴリズムを超えた、実社会に役立つ利益をもたらします。

特定の分野において、人間は機械よりはるかに優れており、全ての仕事をロボットに代替するのは不可能です。人間はごく少数の事例から学ぶことが得意です。

また、新しい状況に直面したとき、大量のデータを収集する前に、適切に状況を捉えて対処することができ、その点でも人間の知能はAIよりはるかに効率的です。

人間には洗練されたセンサーが備わっていて、デジタルカメラなどのセンサーがかなり優れているとしても、ロボットが人間の嗅覚、味覚、触感を再現することはできません。例えば、マッサージ師は触っただけでどこが痛いのか判りますが、十分なタッチセンサーがない機械ではそのような直感を発展させることはできません。そのため洗練されたマッサージをすることはできないでしょう。 

3. 再構築ができる: 人間中心AIの重要な要素

 人間中心のAIシステムは、信頼が鍵となります。ユーザーとAI間の信頼を実現するためには、どのような条件下でシステムが適切に機能するか、そして、どのタイミングでAIを確認/調整するべきかをユーザーが知る必要があります。例えば、自動運転車がデータを更新し、それに基いて安全の必要性を察知して速度を落としたとします。しかしユーザーにとって不要な速度ダウンであれば、AIを調整する必要があるのです。

人間的要素が強い分野ほど、人間中心のAIからの恩恵が大きくなります。例えば、コールセンターではチャットボットが人間のエージェントに代わってユーザーのニーズに対応できると考えられましたが、優秀なチャットボットでも、エラーが発生した場合に備えて、人間が監視する必要があります。

ヘルスケア分野でも、医師や看護師をAIに取り替えるのではなく、医師の診察後にAIが診断作業を引き継ぐことで、医師が1日に診察できる患者数を増やすことができます。更には、診断エラーを減らすこともでき、効率よく医師が働くことができるのです。

要するに、AIの利用者がAIの手助けを必要としているところを明らかにして、それに対応することが重要なのです。またヘルスケア分野などで特に重要なのは、AIの決断理由を説明できるかどうかです。なぜならば、医師はAIがどのようにして結論を出したかを理解することで、判断が正しいかどうか確認し、患者に状況を説明することができるからです。

人間中心のAIは、人間が必要とするAIの開発を手伝ってくれます。エンドユーザーが必要としているところに焦点を当て、人間とAIが共存できる環境を構築していくことが重要です。わたしたちの生活をより便利にし、生産性を向上させるAIは、社会全体に恩恵をもたらすでしょう。

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